指先はとうてい近寄ることはなかった
少なくともその日その年その刻限
兆しのような道を踏み越えるそのときまでは
この汀に触れるものの一切は砕け散りながら離散した
思い出を知らないままに骨は転がり落ちていく
ただ満たされていくばかりの青黒の風景のなかにも一筋の絢爛は迫りながらほほえみ
そうして無限の天蓋が君臨する
彼はため息する
魚は散らばる
無論のこと鮫たちも
そこに泳ぎ回る苦しみは誰のものか?
選られはしないままに波が過ぎていくことの呵責なさ
躊躇いなさ
差し入れられる腕の鋭さ
その白い頬に流れる冷たさをようやく私が知覚する
記しながら解けていく夢と幻この無音の泥のなかへも恐らくは眠り続ける石と石の亡骸を彼は掬い上げる
そうしていると私は信ずる
きみは知っているか? 覚えているか
私が何一つ約されない花束をきみになげうちこうして揺籃のさなかへ立ち入ることを
できればそう、私は花を投げよう
訪れはしなかったあの入り江へと……
#743 | 2015.11.17 |