Pâlir 青褪めた

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#667夢を観た:002012.02.29
 


 目の前一杯に紫が拡がっていた、青みも赤みも鮮やかな平均的なむらさき。
 紫の視界の中心には白く歪んだ円が浮かび上がって、その四方を同じ色のいなづまが取り囲んでいる。忙しくうごめきながら。
 私がそれを見ていたのはどうやらほんの一瞬ばかりのことで、ぽん、という音と共にすべてが崩壊した。
 私の乗っていた車が揺れる。
 揺さぶられる。
 私が乗っていたのは乗用車で、けれどそれは車ではなかった。
 座席がないのだ、そして走行に必要なありとあるもののすべてが。
 柔らかい毛皮とクッション、詰めこまれた日用品、缶詰、IKEAのビニル袋。それらが大きく後ろにかしぎ、私は車ごと転落する。
 今度はごごん、というすさまじい音がした。
 私はじたばたと手足をばたつかせ、できるだけ前のほうへ移動しようとする。夢中の叫び声。私は声を閉じこめておけずに口を開けて、フロントガラスを突き破った。
 巨大な背の杉が私を見下ろしている。
 人造の深緑が。
 白い綿のような息が、舌の先から漂って割れた。
 先端にかかる月は白くて、丸くて、どこまでも巨大だった。
 空は不気味に紫を帯びている。
 私は歩いて、やがて白く凍った湖に出た。
 それは池だったかも知れない、沼かも。
 そこには何人かの人々がいた。
 毛糸の、耳あてのあるオレンジと青の帽子をかぶった、ゆるく波打つ金髪の妹が、はしゃぎながら水に張った氷を割って、そのしたに飛びこんだ。
 熊も一緒に泳いでいる。
 どうだろう、それはやめた方がいいのじゃないかな、だって。
 だってそこにはたくさんの人が死んでいる。
 彼らは凍りついていた。
 さっき起こった地震の犠牲者だ。
 私の乗用車もこのしたに眠っている。
 細く小さな妹の両手が掻き分けた下から、ほら、鈍い銀色の、丸く曲線を描いてトランクが見えたでしょう。

 私たちは故郷に帰ることにした。
 地球だ。
 私たちの奇妙な家族はその日地球にいた。
 手に取った携帯は息をしていない。
 充電器は亡くしていた。
 私は手当たり次第にあちこち歩く、知っている場所で、知っている人に声をかける。
 連絡を取る方法がないの、あの人がどこにいるか分からない。
 探している。
 緑に埋もれた大学で、縮れた髪の人に言った、私が帰っていると、もしあの人に会えたら伝えて欲しい。
 彼は灰色の階段の上で頷いた。

 私はあの人の家にたどり着いた。
 道は忘れてしまう。
 弟がいる。
 あいにくと靴がないので、窓から入る方法はなかった。
 その代わり、ひどく気の毒がりながら、弟はあの人のいるところを教えてくれた。
 温かに曇った窓の向こう側から、言葉もなく、眉間のしわと身振り手振りで。
 私はお辞儀をして走っていった。
 山のように電気を揺らして、赤、緑、白、降り注ぐような光と音。
 たくさんの友達がいた、私は誰一人知らないけれど、あの人の友達だという。
 そこにはあの人もいて、やっと私は安心して、けれど歌の頼み方がちっとも分からない。
 嬉しかったのに、どうやっても分からなかった。
 私は風邪を引いている。
 のどが痛くて、とても歌えなかった。
 落ちこんで、順番が巡るのを待つ。何もしないまま、帰る時間を待っていた。
 やっと開放されて、人波の傍を歩いていく。あの人は笑って話ながら、けれどどちらも、私のことは喋らなかった。
 地震があったんだよ。そう。
 歩いていった先は、群れのなかに見えた一人の家だ。
 その彼女は風呂に入っているという。
 あの人は椅子に座って、私も腰かけて、そうして、彼女と住もうと思っているんだ、とあの人が言った。
 部屋は薄い青だった。
 少し灰色が混ざっている。
 その方が都合がいいし、便利だよ。
 ほら、これも、あれも助かるよ。
 どうして? だって、彼女は友達だもの、助けてあげなくちゃ。
 ほら、これが鍵だよ。もう作ってある。





 朝、口を利けないまま、私は目を覚ました。
 とても恐ろしかった。
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